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麻雀家政婦『紅中』〜接待麻雀専門家〜
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Penulis: 彼方

その1 第一話 その名は紅中

Penulis: 彼方
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-24 20:22:36

1.

 麻雀のプロにはいくつかの種類がある。

 リーグ戦などで切磋琢磨する『競技麻雀』のプロ。大きな賭場で稼ぐ『バクチ打ち』。よくある麻雀店で働く『スタッフ』。健康麻雀の『講師』など。

 他にも麻雀を生業にしている人間は様々いる。

 ――そして、ここにも。特殊な働き方を選んだ麻雀プロがいた。

────

(好形イーシャンテンですね……)

二四六七④⑤3456778 三ツモ

(ドラは4索……この手からは後に危険になりそうな3索を今のうちに捨ててテンパイ時に安全性が高そうな8索を捨てるのが手順です。でも、だからこそ私の仕事的には……)

打8

「よーし、リーチだ!」

「(来ましたね。待ってましたよ)ここは私も降りられませんね」

打6

「ロン! 一発だから満貫!」

「チュンさーん。どんな手から勝負しちゃったのー?」

「いい手でしたよー。テンパイですし」

チュン手牌

二三四赤伍六七④⑤34577

「ああ、三色変化を待ちつつのタンピン系ダマ満貫か。これは6索放銃も仕方ないねー。ていうかもうリーチしちゃっても良かったんじゃないの?」 

「チュンさんっていい手作りしてるけどチョイチョイ大物手に放銃しちゃってるよね」

「アハハ、あまり守備が上手くないんで」

「不思議だなー。いつもけっこういいポジションにいるのにね」

(私は気持ちよく麻雀をしてもらえれば、それが仕事ですからね。上手に点数を分配するためには最初はある程度集める必要がありますし)

────

──

「ああ、今日の麻雀も楽しかった! チュンさん、また明日ね!」

「ええ、また明日。リベンジさせて下さい(ふう、今日もなんとか任務完了ですね)」

 これは、『接待麻雀』という打ち方を生業に選んだ特殊な麻雀打ちの物語――

麻雀家政婦『紅中』〜接待麻雀専門家〜

「では、行ってまいります」

「任せたよ。気を付けてね、チュン」

「はい。お任せ下さい」

 そう言うと大きな荷物を背負い事務所の扉を開けて彼女はお勤めに出た。

 ここは特殊な専門知識を持つ家政婦のみが採用される特別な家政婦の集まる場所。

『特化家政婦専門事務所 アズマ』

 家政婦派遣いたします。料金は応相談。サービスに対して高いということは決してございません。顧客満足度97% 初回はお試し価格。東京都と東京隣接地域ならほぼ全箇所出向きます。

 表向きはここまでの情報しかない。いったい何について特化した家政婦がいるのかその謎は実際に雇った者だけが知ることが出来る。

◆◇◆◇

その1『井之上家』編

第一話 その名は紅中

(『井之上』……ここだ。早すぎたかもしれないけど、時間調整するような喫茶店も何も無いわね、仕方ない)

ピンポーン

『はい』

「ごめんください、わたくし『アズマ』の紅中(ホンチュン)と申します。お時間少し早くなりましたが、よろしいでしょうか」

『あ、大丈夫です。今開けますね』

ガチャ

「今日はありがとうございます。どうぞお上がり下さい」

「いえ、こちらこそご依頼ありがとうございます」

 それなりに片付けてはある玄関口だが、わずかに異臭がある。そして、所々に散らばるゴミ。なるほど、家政婦を頼るのは賢明な判断だ。おそらくこれはこれでも頑張って片付けた状態なのだろう。しかし異臭は自分の鼻が悪くなっていると完全に消すことは出来ないものだ。

「よくアズマにご連絡を下さいました。今なら私1人でも全て美しい状態にする事が可能です。私にお任せ頂けますか」

「ええ、それはもちろん」

 すると紅中と名乗る女性は背負っていた大きな荷物を降ろしてその中から様々な掃除道具を取り出した。

「全ての部屋を掃除することも可能ですが。どうしましょうか? 全部屋やってしまいますか?」

「はい、お願いしま「いやいやいや! 父さん勝手に決めんなよ。おれの部屋はいいから。おれは自分でやるからほっといて!」

「そうですか。わかりました。どの部屋でしょう」

「2階の手前の部屋! そこ、おれの部屋だからやらないでいいよ。よろしくね」

 長男の宏(コウ)は高校1年生だ。さすがに自分の部屋に他人を上げたりはしない。まして見ず知らずの女性なんて思春期真っ盛りな宏が散らかした部屋に上げるわけがなかった。

「僕はやってもらおうかなぁ。部屋を綺麗にする才能が僕には無いみたいだしー。2階の奥が僕の部屋だからお願いしていい?」

「承知いたしました。坊ちゃまのお部屋は掃除してよい、と」

「うん。お手伝いできることがあればやるよ」

「いえ、私にお任せ下さってけっこうですよ。お仕事ですので」

「そう? ありがとう。でも坊ちゃまは恥ずかしいからやめてね」

「なんとお呼びすれば……」

「士郎でいいよ。シロー。名前気に入ってるからさ。そう呼ばれたいんだ」

「なるほど、良いお名前ですね、士郎様」

「えへへ。そうだろ? あと『様』も要らないからね?」

 次男の士郎は中1だ。コミュニケーション能力は高くて、明るいが基本的におとなしめで柔和な子である。

「旦那様の部屋は……?」

「ああ、私の部屋とかそういうのは無いから。強いて言うなら本の部屋がそれだけど、本当に本があるだけだからね。ちなみにそこだけは整頓してるからやるっていっても少し拭き掃除するくらいしかやる事はないと思うよ」

「書斎……ということでしょうか」

「そんな格好いいもんじゃないさ。半分以上漫画だし、本当にただの本棚だよ。……私は漫画が好きなんだ。漫画家になりたいと思って若い頃はチャレンジしたくらいでね。担当さんもついたんだけど、それが全然売れなくてねぇ。諦めて別の道を選んだわけですが、漫画が好きな気持ちは今でも人一倍だというわけです」

「担当さんがついたなんてすごいです! プロじゃないですか」

「鳴かず飛ばずじゃダメさ。そんなのプロって言っていいのか……なんにせよ、昔の話ですよ。今は陶芸一本。それが私の進むべき道だったようです」

「それも素晴らしいことですね。アートの世界に生きる方を私は尊敬します」

「嬉しいこと言ってくれるね〜。ええと、ごめん、お名前は何さんだっけ」

「『紅中(ホンチュン)』です。と言っても『チュン』で構いません」

「チュンさんね。……チュンさん、どうもありがとう」

「いえ、そんな……」

 少しリビングを見て回ると麻雀大会準優勝の盾が飾られていることに気付いた。

「! この盾はどなたが?」

「ああ、これは生前に妻が獲ったものです。下手の横好きでしたが作家枠で呼ばれた麻雀大会で決勝戦まで残り、優勝にあと一歩というところまで行った。その準優勝の盾ですね」

「奥さまはお亡くなりでしたか……それで私どもに……」

「そうなんです。私なりに必死になってやってきたつもりですが、恥ずかしながら家事は任せきりだったということを妻を失ってから認識しました。彼女には家事と育児と任せていて、それで仕事もさせていたなんて、どうして私はそんな事をさせてしまったんだって……今は後悔しかないです。ストレスも軽減させていたら彼女の運命は違っていたのかもと考えると本当に……もう」

(奥さまはストレス性の原因がある病でお無くなりになったのかしら……いや、詮索は今はやめよう。余計な事は聞かない方が賢明)

「チュンさん。私はね、恥ずかしながら洗濯機もまともに使えなかったんです。その事にも妻を失ってから気付きました。……全くもって情けない」

「でも今は頑張ってここまでやってらっしゃるではないですか」

「これは人を呼ぶからなんとか出来る限り、失礼の無いように必死に掃除してこれなんです。頑張ったつもりですが、妻がいた頃とは比較にならない。稼ぎだって妻の方があったのに。私はダメな夫だったんです」

「旦那様、そんな事はございませんよ。私たち家政婦のご依頼主には2つのパターンがあります」

「パターン……ですか」

「はい、1つはどうせ家政婦に片付けてもらうんだからと全くそのままにしているパターン」

「そんなひどい人いるんですか」

「全然いますよ。お金払うんだからいいでしょという考えです。それももちろん間違いではありませんし」

「そういうものですか」

「はい、もう1つは旦那様のようになるべく片付けてからやってもらおうと思うパターン。どちらもお客様ですから、私は働くのみですが、やはり片付けてからやってもらおうと思う旦那様のようなパターンですとこちらも気持ちよくお仕事に取り掛かれます」

 そういったリスペクトのある関係で仕事をするのが素晴らしいな。と思う紅中ではあったが、そこは言わなかった。自分をリスペクトするべきだといった意味に取られる可能性のある発言はしないあたり、さすがのサービス精神である。

「こんなのでもそう褒めてもらえると片付けた甲斐があったよ。ありがとう」

「いえ…… 感謝をしてるのは私の方でございます」

「ハハ、そうだった。でも、言わせて欲しいんだ。ありがとうと。多分、妻にはこういう時に感謝を言えなかったから……そういうのも良くなかったなって、反省しているんだよ」

「チッ……死んでから反省したって何もかも遅せーんだよ!」

「宏……」

「喉渇いた。なんか飲み物あったっけ」

「あー、切らしてるかもな」

「来客があるのに飲み物を切らしてるなんてお母さんならありえなかった」

「ゴメンな……宏」

(やれやれ、これはまず長男の宏さんのやり切れない怒りをなんとか鎮める所からですか。少し骨が折れそうです)

 こうして、紅中による井之上家での仕事が始まった。

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